「Selection for Societal Sanity(社会の思想的健全化のための淘汰)」。 1970年代から国家を影で支配してきた闇の組織「愛国者達」によって実施された計画。 21世紀に入るとデジタル革命とインターネットの普及により、個人の携帯電話やパソコンなどといったツールから膨大な情報が発信、 多くの人間がそれらを閲覧するようになった。 愛国者達はこのデジタル社会において、すでに発信されてしまった情報を検閲するという今までのやり方では完璧な情報統制を行うことができなくなることを危惧し始めたのだった。
そこで愛国者達は世界中の人間の意志をコントールするシステム、 つまり都合の悪い情報がそもそも個人から発信されなくなるようなシステムの開発に乗り出す。 それは機械のような形のあるシステムではなく、人間が普段の生活で何気なく見るもの、聞くもの、選択するものの中に 自然と意志を誘導する要素を含ませるというものであった。 これにより愛国者達は 「人々は自分で判断してると思っていることが、実は無意識下で愛国者達に操られている」という世界を作り出していった。 当然その過程の中で、愛国者達にとって都合の悪い情報を削除する"検閲"も平行して行われた。 このようにして愛国者達は人間が頼るところの文化や思想そのものに変貌していった。
これを実現するために愛国者達が考えだしたメソッド(方法)とそれを扱うプロトコル(手順)こそがS3(エススリー)と呼ばれるものだった。 そしてその有効性を立証するための最終試験がMGS2のストーリーにつながる。 2007年のタンカー沈没事件に始まり、愛国者達は 演習の舞台をつくり上げるためのさまざまな仕込みを行なっていった。 そして2009年、愛国者達は手先であるオセロットを使って ソリダス・スネークにビッグシェル占拠事件を引き起こさせた。 海上除染施設ビッグシェルにて ソリダス率いるテロ集団、政府関係者、軍隊、そして架空のFOXHOUND隊員である雷電を "駒(ポーン)"として配置し、2005年のシャドーモセス島事件をモデルとして作成したシナリオ通りに 彼らの行動を操る実験を行ったのだった。 そして結果として人々は愛国者達の予想通りに行動し、事件も愛国者達の予想通りに終幕した。 当然、事件中人々は自分が誰かに操られていることなど認識できず、あくまで自分で選択して行動していると思い込んでいた。 これはつまりS3を世界規模で実行すれば、先に説明したような「自分で判断してると思っていることが、実は無意識下で愛国者達に操られている」という世界が作れることを証明したのだった。
演習のシナリオにおいてシャドーモセス島事件がモデルとされたのは、その事件が一種の"極限状態"であったからである。 シャドーモセス島事件のような人々が常に自らの生死を分けるような究極の選択に迫られ続ける状況下で 人々の行動を制御することができれば、他のいかなる状況でもS3が有効であることが証明される。 つまりビッグシェル占拠事件はS3の"限界性能試験"であったのである。
なおビッグシェル占拠事件において愛国者達はオセロットに対しても偽りの情報を教えていた。 それは、S3とは「Solid Snake Simulation(ソリッド・スネーク・シミュレーション)」の略であり、 雷電のような若い兵士を伝説の英雄ソリッド・スネークのような兵士に育てるための効率的な方法を演習で立証する、というものだった。 この嘘の情報により、オセロットでさえも無意識化で行動を操られる駒に過ぎなかったのである。
ビッグシェル占拠事件が収束した時、愛国者達のAIは雷電に対して、 「デジタルの普及で情報が淘汰されなくなり、個人個人がそれぞれに都合の良い情報ばかりに身を寄せ合う世の中はやがて人類の歴史を狂わせる」というような意見を語った。 そしてこの状況に対してS3計画は人類のために実行した計画であると発言した。 本当に愛国者達が人類を思いやっていたのかは怪しいものであるが、彼らの意見は正論であった。